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ジュリアスの病室前の廊下で、グレイスの肩を抱いて慰めているクレスティアを見つけて二人は歩み寄った。
「ご母堂様、セイジェル閣下がご記憶を取り戻されたとのことですが…」
「ああ、セレスト…。とりあえずすべての記憶が戻ったようなのだけど…。波の音にひどく怯えて…取り乱した様子だったので、鎮静剤をうってもらって眠らせたところなの」
ドアの向こうではジュリアスが無理矢理眠らされているらしい。ダインはいたたまれない顔でロイドを見た。
「閣下…」
ロイドは波の音に怯えると聞いて、色んなことに思い当たっていた。
「ダイン大佐。閣下はいつも睡眠薬を携行しておられました。それは、波の音で眠れぬからだったのではないでしょうか…。第四小隊を壊滅状態にしたのはご自分のせいだと、責めて責めて…挙げ句に海の底で臨死体験までして…それで波の音に怯えるようになられたのでは…」
「いつ、気付かれた?」
「いえ、たった今です…。閣下は海の傍の戦場ではほとんどお休みになりませんでした。陸軍に来られてから、王国戦でも徹夜でしたし、先日の共和国戦でもほとんど寝ておられぬ状態で指揮を。陸軍宿舎で寝る前に陸軍の過去の戦況報告書をご覧になられていたのも、もしかしたら…闇に怯えて寝付くことができなかったからではないかと…」
「閣下…」
その時だった。ジュリアスの病室から激しい音が聞こえてきた。立ち上がるクレスティア達を留めて、ダインはロイドと顔を見合わせてドアを開けた。
「セイジェル閣下、ダインです。ロイド中佐も一緒です…。閣下…?」
「閣下!!」
ベッドから離れることなどできないはずのジュリアスが、点滴の針を抜いているところだった。さっき聞こえてきた音は、ジュリアスがベッドの柵を力任せに引き抜いて床に叩き付けた音らしい。
「帝都に戻る…。こんなところにはおられぬ…」
「閣下、わかりましたからベッドにお戻り下さい。閣下!」
止めようとするロイドを払いのけて、ジュリアスは奥にあったクローゼットから軍服とサーベルを出した。無理をしたのだろう、右の太ももに巻いている包帯に、血が滲んでいる。
「閣下、わかりました。とにかくベッドに。傷口が開いてしまいますから…」
ジュリアスの扱いに馴れているダインがジュリアスに手を差し伸べる。いつもならそこでサーベルを預けてくれるはずなのだが…。
「閣下…?」
ダインの鼻先に、サーベルの切っ先。さすがのダインも青ざめた。
「指図は受けぬ。帝都に戻る。だが、屋敷にも宿舎にも戻らぬ。…セイジェル家の別荘に行く。手配しろ」
「…かしこまりました。ロイド中佐、閣下のお召し換えを手伝って差し上げて下さい」
「はい」
振り乱したままの銀髪に気付いて、ジュリアスはサーベルを鞘に収めて髪に手をやった。身体中に痛みが走っているだろうに、眉ひとつ動かさない。ロイドはジュリアスの着替えを怪我に障りのないように注意しつつ手伝った。