ジュリアスの指摘に、男の身体が硬直した。ジュリアスはサーベルを男の頬にヒタヒタとあてた。
 応接室に通されたディーン・ゲノア元帥は、緊張の面持ちでアドラールと対面していた。アドラールが退役して以来、顔を合わせてはいなかった。
「使用人の中に内通者を見つけました。私の父親の名前は明かしていないが、戸籍の父親の欄は空欄であると外部に漏らした者がおります。しかもその者は、皇后陛下のお傍近くに仕える者と名乗る人間から屋敷の給金の3倍を提示されて簡単に白状したそうですよ。父親の名前を言わなかっただけでもよしとしますか?侯爵。…何と言っても一人娘の恥、ですからねぇ」
 皇宮に向かう車内には、ジュリアスとロイド、リスティ、それに使用人が乗っていた。
 煙草を銜えたジュリアスは、流れる景色をぼんやりと見つめている。
 ジュリアスが皇宮庁に入ったことは数えるほどしかない。戦勝報告の際に与えられる控え室が時折皇宮庁内に設置された時に行く程度である。ロイドに至っては一度もない。
 皇宮庁長官が先程の職員を伴って入ってきた。ジュリアス達は立ち上がり、それぞれの軍の形式に従って敬礼した。
 ジュリアスの不機嫌さは頂点に達していた。否、とうに頂点など超えていた。雑誌社の関係者が証言するたびに、ライターの蓋が開いたり閉まったり。それはジュリアスが如何に苛ついているのかを示していた。
 サーベルを鞘に収める音。跪いた男は顔を上げてジュリアスを見た。見下ろしてくるその射抜くような視線に震えが止まらない。
 大広間の玉座には、グレイスのことで苦悶する皇帝がまだ座ったままだった。善後策を考えていたのだろう。
「皇后陛下。皇帝陛下がお呼びだそうでございます。至急大広間においでくださいませ」
 皇后は皇帝のところに歩み寄ろうとしたが、玉座への階段の近くにジュリアスが座っているのに気付いた。
 皇帝の声に、ジュリアスの手は止まった。止められたことに、ひどく不満そうな顔ではあったが。
 泣きじゃくる皇后を抱きしめ、皇帝はジュリアスを見上げた。
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