その都は、最も空に近い場所にある。
 天上の神々が住まう天空に最も近い場所。
 だからその都に生きる人々は、誇りを持って言うのだ。
 この都は、空(くう)の都だと。
 男がここにやってきたのは、
 間もなく風の月になろうかという頃だった。
 銀色の髪をなびかせて、口許には薄笑いを浮かべて。
 何のためにここに来たのか、何処から来たのか。
 誰も、知らない…。

 
 空の都は、貧富の差があまりない。夜になれば酒場に男達が集まり、その日の疲れを癒す。
 人々に酔いが回り始める頃、その男が今夜もやってきた。
 酒場の女には目もくれず、果実酒を注文する。
 物憂げに揺れる冷ややかな蒼い瞳、肩から落ちる時に音をたてそうな艶やかな銀髪。女達が自分の噂をする声にも全く興味を示さない。その瞳は、遠い昨日を見ているようだ。
 一人の女が男に近づいた。この盛り場では一番の美女といわれるアイリスである。
「ねぇ、お兄さん。毎日同じ時間に来て、一体何が目的なの?」
 彼はアイリスをチラ、と見ただけで、杯に手を伸ばした。アイリスは無視されたのである。一瞬にしてアイリスの目が険しくなり、いくつもの装飾品で飾った彼の手首を掴んだ。
「ちょっと、アタシを誰だと思ってるの?? …イタタタ、何するのよ!」
 掴んだはずの手首は、逆に男に掴まれていた。彼は軽く笑った。
「何をする?どっちの台詞だ」
 高過ぎず低過ぎず、その容姿に相応しい声に女達の溜息が聞こえる。彼は初めて周りの反応に気づき、杯を置いた。
「目的?それがわからぬから、ここに来ているんだがな…」
 意味深な言葉を残し、彼は出て行った。
 酒場にはしばらく、喧騒は戻らなかった。
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