夕飯の支度を始めたアイーシャの近くで、エシャールはようやく剣の
手入れを始めた。
 白夜の剣。
 何故自分が持っていたのか、それさえわからない。
 もうどこの街角かさえ忘れたが、目を開けると野良犬が水溜りの水を
飲んでいるのが見えた。手を伸ばすと、ペロリと舐められた。
 その生暖かい感触は、今でも覚えている。自分は生きているのだと
ようやく実感した。手の中の剣に気づいたのもその時だった。
 よほど強く握り締めていたらしく、なかなか右手から離れなかった。
 ゆっくりと指をはずしていきながら、大切なことを思い出せないこと
に気がついた。そのことに気付いても、特に何の感動も絶望もなく、
雨の中、どんどん濡れていく足元を見ていた。返り血を浴びているらし
い衣だけが、彼の過去を知っているようだった。その衣も、すぐに買い
換えて捨てた。
 それ以来、この剣だけで生きてきた。賞金稼ぎが主だったが、個人的
な依頼も受けてきた。
 殺し、以外を。
 その依頼は大抵酒場で受けてきたため、毎日酒場に通っていたのであ
る。目的がわからないとアイリスに言ったのはそのためだ。
 今は、目的があるからいいのだが。
「エシャール、ご飯にしましょ」
「ああ、わかった。すぐに片付ける」
 アイーシャの傍にいるという目的が。
Secret

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