抱きしめられたままアイーシャはしばらく泣いていたが、やがて口を開いた。
「あなた、私ね…あなたが記憶を取り戻すことは恐れないって言ったけれど、
 ほんとは怖くて仕方ないの」
 アイーシャはそう言って、抱きつく腕に力を籠めた。すぐに優しく、だが力強く
エシャールが抱き返してくれる。
「この指輪の石の名前が天帝に由来してることも、あなたの記憶に繋がるもの
 なんじゃないかって思ったら、急にあなたが遠く感じて。怖くて、怖くて…。
 蒼い夢…って、ずっとみてるでしょう?だから、そのことも繋がるんじゃないかとか、
 いっぱい、いっぱい考えちゃって…」
 エシャールは目を閉じた。こんなに不安にさせていたとは。
「アイーシャ、誓ったはずだ。たとえどんな真実がわかったとしても、そなたを
 泣かせたりしないと。そなたのこの手は、どんなことがあっても離しはしない」
 失うかもしれないという恐怖は、エシャールにもある。それでも、誓いたかった。
この胸の内にある妻への愛情を、どうしても知っていてほしかったのだ。
「エシャール…」
「この世で何より大切なそなたを、失うようなことはせぬ」
 エシャールはアイーシャを抱えあげ、そのまま口づけた。首に抱きついてくる
アイーシャの髪に顔を埋めて、その奥の首にも口づける。
 こんなに愛しい人を失うことなど、考えたくもない。ふたりの想いは、同じなのだ。

 体で想いを交した後、エシャールがふと思い出したように言った。
「アイーシャ、明日も仕事になってしまった」
 腕の中でうっとりしていたアイーシャが顔をあげる。
「どうして?」
「…そなたのことが心配で、早く帰ってきてしまったゆえ…明日も来いと言われてな」
 腕の中の妻は、聞こえないふりをして笑った。
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