空の都を出たエシャール達は、急かされぬゆったりとした旅を続けていた。
 雪に閉ざされるのは空の都くらいのもので、峠を越えればそこまで雪は
積もらないのである。
 峠を越えてすぐの宿場町にふたりが辿り着いたのは三日ほど前。多めに金を
渡して、長逗留を決め込んでいる。
「エシャール、夕飯きてるよ?」 
 他の客と違って、部屋まで運ばせている。金さえ渡せば、何とでもなるものだ。
「あと半月もすれば新の月か。新年までは空の都にいるつもりだったんだがな」
 窓辺で景色を見ていたエシャールが呟く。その言葉にアイーシャの表情が
みるみるうちに沈んでいった。
「ごめんなさいエシャール、アタシのせいで…」
「い、いや、いいんだ。気にしないで。今のは私の失言だ。忘れてくれ」
 慌てて取り消して、アイーシャの髪を撫でる。
 空の都を出てからというもの、アイーシャは元気がない。エシャールに申し訳ない
という気持ちが、アイーシャから笑顔さえ奪ってしまっているのだ。エシャールも
もちろんそれに気付いてはいるのだが、それを口に出すと尚更アイーシャが頑なに
なりそうで、言えないでいる。
「とにかく食事にしよう。後で市場にでも行ってみようか」
「…うん」
 どうすればアイーシャは笑顔を浮かべてくれるのか。エシャールはアイーシャに
わからぬように溜息をそっとついた。
「お客様」
 空気が重くなりかけたところに、宿屋の主人が扉をノックして入ってきた。
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