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2006.03.01
蒼の都の物語・150
「長い間、本当にお世話になりました。…私には今、このような形でしかお礼ができませんが、どうか納めてください」
エシャールはそう言って、刺繍の入った布の袋を院長に手渡した。
「このようなお礼をいただくわけには…」
「院長に、ではなく、この修道院に。見れば老朽化も激しい。修復の足しにしてください」
院長は渋々受け取り、中身を見た。金貨がかなりの枚数入っている。
「お、御曹司殿。このような大金…」
「我が妹は、金では買えません。お礼と言うにはあまりにも少ないですが、今の私の精一杯です。執政官になりましたら、そのときに改めてお礼に伺います」
「…わかりました。このようなお礼をいただくためにセアラを助けたわけではありませんが…御曹司殿の真心、謹んでお受けしましょう」
ようやく院長が笑顔とともに袋を納めた。
「さ、失礼しようか」
エシャールに促されて廊下に出る。
「アイーシャ」
廊下にある大きな窓の傍で、エシャールが呼ぶ。近づいていくと、抱き寄せられた。
「これから私は、そなたの知らぬ私になるかもしれぬ」
冷たい響きだった。見上げれば、差し込んでくる月の光に照らされたエシャールの横顔。アイーシャは寒気さえ覚えた。
「私が海の執政官の座を手にするまで、ここにいてはくれぬだろうか」
「…どうして?…」
「そなたには、見られたくないのだ。私がどれほど冷酷で、情けを持たぬ人間か…。今、執政官家になっているのは私の大叔父だ。この大叔父には相応の報いを受けてもらわねばなるまい。我が両親や幼い妹達、使用人を殺された上に執政官家をのっとられたのだ。恐らく、叔父上も大叔父から毒を盛られたのだろう。許すことなど到底…。私は復讐の鬼と化すことになる。その姿を、見られたくないのだ。わかってくれ、アイーシャ」
そうやって、まだ自分だけで傷つくつもりなのだろうか。確かにその大叔父という人は報いを受けなければならないのだろう。エシャールや執事から聞く限り、先の執政官一家の仇なのだから。
「ひとりで泣いたりはしないでね、エシャール」
「アイーシャ…」
見つめてくるエシャールの手を握り、そのまま自分の頬にあてる。
「どんなエシャールでも私の大切なエシャールなんだから。ひとりだけで傷ついて、自分を責めて泣いたりしないでね。あなたには、私がいるんだから…」
エシャールは笑った。
「心配はいらぬ。私が涙を見せるのは、そなただけだ。…セアラを、頼む」
「はい、あなた」
エシャールはアイーシャの肩を抱いて、セアラが眠る部屋に戻った。
「このようなお礼をいただくわけには…」
「院長に、ではなく、この修道院に。見れば老朽化も激しい。修復の足しにしてください」
院長は渋々受け取り、中身を見た。金貨がかなりの枚数入っている。
「お、御曹司殿。このような大金…」
「我が妹は、金では買えません。お礼と言うにはあまりにも少ないですが、今の私の精一杯です。執政官になりましたら、そのときに改めてお礼に伺います」
「…わかりました。このようなお礼をいただくためにセアラを助けたわけではありませんが…御曹司殿の真心、謹んでお受けしましょう」
ようやく院長が笑顔とともに袋を納めた。
「さ、失礼しようか」
エシャールに促されて廊下に出る。
「アイーシャ」
廊下にある大きな窓の傍で、エシャールが呼ぶ。近づいていくと、抱き寄せられた。
「これから私は、そなたの知らぬ私になるかもしれぬ」
冷たい響きだった。見上げれば、差し込んでくる月の光に照らされたエシャールの横顔。アイーシャは寒気さえ覚えた。
「私が海の執政官の座を手にするまで、ここにいてはくれぬだろうか」
「…どうして?…」
「そなたには、見られたくないのだ。私がどれほど冷酷で、情けを持たぬ人間か…。今、執政官家になっているのは私の大叔父だ。この大叔父には相応の報いを受けてもらわねばなるまい。我が両親や幼い妹達、使用人を殺された上に執政官家をのっとられたのだ。恐らく、叔父上も大叔父から毒を盛られたのだろう。許すことなど到底…。私は復讐の鬼と化すことになる。その姿を、見られたくないのだ。わかってくれ、アイーシャ」
そうやって、まだ自分だけで傷つくつもりなのだろうか。確かにその大叔父という人は報いを受けなければならないのだろう。エシャールや執事から聞く限り、先の執政官一家の仇なのだから。
「ひとりで泣いたりはしないでね、エシャール」
「アイーシャ…」
見つめてくるエシャールの手を握り、そのまま自分の頬にあてる。
「どんなエシャールでも私の大切なエシャールなんだから。ひとりだけで傷ついて、自分を責めて泣いたりしないでね。あなたには、私がいるんだから…」
エシャールは笑った。
「心配はいらぬ。私が涙を見せるのは、そなただけだ。…セアラを、頼む」
「はい、あなた」
エシャールはアイーシャの肩を抱いて、セアラが眠る部屋に戻った。
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