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2006.04.01
蒼の都の物語・181
「では、碧の執政官殿」
エシャールの書いた流刑執行命令書に連名で署名した碧の執政官が、いったん海の都に残ることになった。エシャールは迷ったが、まずは奥方を迎えに行かれよと微笑まれ、後を託すことにしたのだ。
本当は各地方行政府の長官を呼び寄せ、自分の執政官就任を報せて新たな体制作りに入りたかったが、そのためには自分の周りもきっちりする必要があった。いつまでもアイーシャとセアラを漣の都に置いているわけにもいかないし、何よりセアラのことが気がかりだった。二人とも元気だということは配下から聞いてはいたが、もし、セアラの記憶が戻っていたら…。それがいつも引っ掛かっていたのである。
「留守は預かる。戻られたなら、存分に執政官家としての政務に励まれよ」
「はい。…では」
エシャールはウィンディアの腹を蹴った。
一行を見送った後、碧の執政官は都から連れて来た配下を集めて命じた。
「新しい海の都の執政官就任を祝うための儀式の準備を始めよ。都の民に報せるのは執政官殿が戻られてからだ。流刑の執行命令も戻られてから発布すればよい。民には知られぬようにな。地方行政府からもし何か言ってくるようなことがあればすべて私が対応する。戻られるまでは執政官府を守らなければな」
「かしこまりました」
「それから誰か、我が妻子を連れてまいれ。海の都と碧の都の友好関係を内外に知らしめる。天帝陛下にも…お喜びいただけるだろう」
リディアはエシャールに言われてすでに実家に戻っている。エシャールの式典に合わせて執政官屋敷に来ることになっている。
「また…平和な都を取り戻さねば…」
陽射しに手を翳して、碧の執政官は呟いた。
漣の都に向かう途中、エシャールは執事と並んで馬を進めていた。
「…じい。悪かったな」
「何がでございますか」
「私が大叔父御達に敬語を使わなかったことを責めたかったのだろう?」
執事は笑った。
「若様がわかっておいでなればそれでよいのです。冷静さを失っておられるのではないかと、つい…」
「失いかけたよ。じいが私を呼んでくれて助かった」
恐らくそれは嘘なのだ。元から冷静沈着な御曹司だった。そしてこの5年の間に更に経験を積んだ彼は、執事が知っている若様ではなかった。
気を遣ってくれているのだろう。アイーシャと共に過ごした日々が、御曹司を成長させている。それに気付いて、執事は何も言わずに頷いた。
「アイーシャとセアラは仲良くやっているかな…」
「先に配下を一人やりました。今頃はお支度にお忙しいでしょうな」
「御披露目用の衣装を作らせねばならぬな、アイーシャの分、セアラの分…私の分も。父上の衣装は私には丈が短い」
エシャールが笑う。執事もつられて笑った。
「あとはセアラの記憶が戻っていないことを祈るのみだ。多分、私の髪の色で…思い出すだろうが…」
執事も同じことを考えていた。蒼銀の髪の御曹司と共に恐怖の日々を過ごしていたのだ。本来の姿を取り戻した御曹司を見て、記憶を取り戻すであろうことは想像に難くない。セアラが再び、壊れないとも限らないのだ。
「気が重いな、じいよ…」
「若様…」
エシャールはそれでも早く行くつもりなのか、ウィンディアをせかしていた。
本当は各地方行政府の長官を呼び寄せ、自分の執政官就任を報せて新たな体制作りに入りたかったが、そのためには自分の周りもきっちりする必要があった。いつまでもアイーシャとセアラを漣の都に置いているわけにもいかないし、何よりセアラのことが気がかりだった。二人とも元気だということは配下から聞いてはいたが、もし、セアラの記憶が戻っていたら…。それがいつも引っ掛かっていたのである。
「留守は預かる。戻られたなら、存分に執政官家としての政務に励まれよ」
「はい。…では」
エシャールはウィンディアの腹を蹴った。
一行を見送った後、碧の執政官は都から連れて来た配下を集めて命じた。
「新しい海の都の執政官就任を祝うための儀式の準備を始めよ。都の民に報せるのは執政官殿が戻られてからだ。流刑の執行命令も戻られてから発布すればよい。民には知られぬようにな。地方行政府からもし何か言ってくるようなことがあればすべて私が対応する。戻られるまでは執政官府を守らなければな」
「かしこまりました」
「それから誰か、我が妻子を連れてまいれ。海の都と碧の都の友好関係を内外に知らしめる。天帝陛下にも…お喜びいただけるだろう」
リディアはエシャールに言われてすでに実家に戻っている。エシャールの式典に合わせて執政官屋敷に来ることになっている。
「また…平和な都を取り戻さねば…」
陽射しに手を翳して、碧の執政官は呟いた。
漣の都に向かう途中、エシャールは執事と並んで馬を進めていた。
「…じい。悪かったな」
「何がでございますか」
「私が大叔父御達に敬語を使わなかったことを責めたかったのだろう?」
執事は笑った。
「若様がわかっておいでなればそれでよいのです。冷静さを失っておられるのではないかと、つい…」
「失いかけたよ。じいが私を呼んでくれて助かった」
恐らくそれは嘘なのだ。元から冷静沈着な御曹司だった。そしてこの5年の間に更に経験を積んだ彼は、執事が知っている若様ではなかった。
気を遣ってくれているのだろう。アイーシャと共に過ごした日々が、御曹司を成長させている。それに気付いて、執事は何も言わずに頷いた。
「アイーシャとセアラは仲良くやっているかな…」
「先に配下を一人やりました。今頃はお支度にお忙しいでしょうな」
「御披露目用の衣装を作らせねばならぬな、アイーシャの分、セアラの分…私の分も。父上の衣装は私には丈が短い」
エシャールが笑う。執事もつられて笑った。
「あとはセアラの記憶が戻っていないことを祈るのみだ。多分、私の髪の色で…思い出すだろうが…」
執事も同じことを考えていた。蒼銀の髪の御曹司と共に恐怖の日々を過ごしていたのだ。本来の姿を取り戻した御曹司を見て、記憶を取り戻すであろうことは想像に難くない。セアラが再び、壊れないとも限らないのだ。
「気が重いな、じいよ…」
「若様…」
エシャールはそれでも早く行くつもりなのか、ウィンディアをせかしていた。
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