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2006.07.01
蒼の都の物語・271
「…至上…?」
書院に向かおうとしていた天帝の足が止まった。いつものように陽の月の間の民の幸せを願うために天空の書院に向かっていたが、至上の声が聞こえたような気がして、至上御光臨の間へと行き先を変えた。
普通の神官では扉にさえ触れることが許されない、至上御光臨の間。セルディアスだけが掃除のために入ることを許されている。
「…至上…何か、ございますか…?」
祭壇に捧げられた白夜の剣に跪き、天帝は至上の声に耳を傾けた。
「…海の都の雲間の街の件ですか…?しかし海の都は執政官が代替わりしたばかりでそのような試練は…」
天帝は縋るような瞳で天空を見上げたが、言い分は聞き入れられなかった。
「すでに雲間の街の調査を始めているのですか…。確かにこれで皇子の執政官としての力量ははかれましょうが、花の月には妹の婚儀を控えております。そこまで皇子に試練を与えずとも…」
至上からの声は途絶えた。天帝はしばらくガックリと項垂れていたが、ゆっくりと立ち上がった。そして立ち上がったまま、振り返ることもなく言う。
「…いたのか」
カーテンの向こうに、セルディアスがいた。天帝がいない間に掃除をしようと入って来ていたらしい。天帝は悲しげに微笑み、それからセルディアスを手招きした。カーテンの傍までやってきたセルディアスに、天帝は呟くように語る。
「至上は、皇子の力量をお試しになるそうだ。元々、雲間の街の異変はそれとなく予の耳にも届いていた。いずれは誰かが解決せねばならぬこと。そんなことはわかっているが…皇子は試されることが大嫌いだ。どうやって解決するかで力量をはかるとのことだが…。皇子がそのことを知ったら…」
皇子は幼い頃から、人に試されることを非常に嫌っていた。学問の修得具合を見てやろうと天帝が問いを出すのでさえ嫌々ながらやっていたほどだった。ただ意見を求められているとわかっている時はとうとうと意見を述べるが、試すような問いかけには一切答えず、話した後で試されたとわかると烈火の如く怒っていた。すべてにおいて優れている皇子の、唯一と言っていい欠点だった。
「今は執政官なのです、至上の御意向をおわかりになるはずがありません。雲間の街の件についてはつい先日、神官庁長官より相談を受けました。殿下におかれましては、最善の策をお考えです。御心配にはおよびません。…陛下、陛下の御子様ではございませぬか。もっともっと御成長なされます。いずれは陛下の御跡目を…」
「いや…」
「陛下?」
「…あれに跡目を譲るつもりは、今のところ、ない」
天帝の口から発せられた言葉の意味が、セルディアスは一瞬わからなかった。しばらく考えて、天帝が何を言ったのかをようやく理解する。
「陛下、御跡目を譲られぬというのは、何故…」
天帝は、腰に提げた白夜の剣を握りしめた。
普通の神官では扉にさえ触れることが許されない、至上御光臨の間。セルディアスだけが掃除のために入ることを許されている。
「…至上…何か、ございますか…?」
祭壇に捧げられた白夜の剣に跪き、天帝は至上の声に耳を傾けた。
「…海の都の雲間の街の件ですか…?しかし海の都は執政官が代替わりしたばかりでそのような試練は…」
天帝は縋るような瞳で天空を見上げたが、言い分は聞き入れられなかった。
「すでに雲間の街の調査を始めているのですか…。確かにこれで皇子の執政官としての力量ははかれましょうが、花の月には妹の婚儀を控えております。そこまで皇子に試練を与えずとも…」
至上からの声は途絶えた。天帝はしばらくガックリと項垂れていたが、ゆっくりと立ち上がった。そして立ち上がったまま、振り返ることもなく言う。
「…いたのか」
カーテンの向こうに、セルディアスがいた。天帝がいない間に掃除をしようと入って来ていたらしい。天帝は悲しげに微笑み、それからセルディアスを手招きした。カーテンの傍までやってきたセルディアスに、天帝は呟くように語る。
「至上は、皇子の力量をお試しになるそうだ。元々、雲間の街の異変はそれとなく予の耳にも届いていた。いずれは誰かが解決せねばならぬこと。そんなことはわかっているが…皇子は試されることが大嫌いだ。どうやって解決するかで力量をはかるとのことだが…。皇子がそのことを知ったら…」
皇子は幼い頃から、人に試されることを非常に嫌っていた。学問の修得具合を見てやろうと天帝が問いを出すのでさえ嫌々ながらやっていたほどだった。ただ意見を求められているとわかっている時はとうとうと意見を述べるが、試すような問いかけには一切答えず、話した後で試されたとわかると烈火の如く怒っていた。すべてにおいて優れている皇子の、唯一と言っていい欠点だった。
「今は執政官なのです、至上の御意向をおわかりになるはずがありません。雲間の街の件についてはつい先日、神官庁長官より相談を受けました。殿下におかれましては、最善の策をお考えです。御心配にはおよびません。…陛下、陛下の御子様ではございませぬか。もっともっと御成長なされます。いずれは陛下の御跡目を…」
「いや…」
「陛下?」
「…あれに跡目を譲るつもりは、今のところ、ない」
天帝の口から発せられた言葉の意味が、セルディアスは一瞬わからなかった。しばらく考えて、天帝が何を言ったのかをようやく理解する。
「陛下、御跡目を譲られぬというのは、何故…」
天帝は、腰に提げた白夜の剣を握りしめた。
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