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2005.10.28
蒼の都の物語・3
アイーシャとエシャールには、血の繋がりはない。風の月に
なろうかという頃、城壁に寄りかかっていたエシャールに、
水汲み帰りのアイーシャが声をかけたのだ。
なろうかという頃、城壁に寄りかかっていたエシャールに、
水汲み帰りのアイーシャが声をかけたのだ。
黒いマントを頭から被ってぐったりとしていたので、最初は
死んでいるのかと思ったのだが、近づいてみれば呼吸が聞こえた。
物乞いが死に掛けているならば、何か施さなければなるまい。
そう思ったのだ。
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
アイーシャが声をかけると、彼は薄く目を開いてすぐに閉じた。
「こんなところにいたら、死んじゃうわよ!」
「ほうっておいてくれないか…」
口許に薄笑いを浮かべて言うエシャールの胸座を、アイーシャは
グイッと掴んだ。
「いいからいらっしゃいったら!!」
揺らしたことでエシャールの顔が露になった。
砂にまみれた銀髪が流れ落ちる。埃で汚れてもなお美しい顔が、
胸座を掴んだアイーシャを戸惑わせた。
その様子に、エシャールが微笑んだ。
「わかったよ、お姫様」
帰り着くと、アイーシャはすぐに彼に湯浴みをさせた。
せっかく掃除した家の中を、砂で汚されてはかなわない。
「きれい…」
彼の荷物の中に、剣があった。鎖には見事な装飾が施され、
高価なものであろうとアイーシャにも察しがついた。
「触ってみても、かまわぬぞ」
いつからそこにいたのか、彼が髪から雫を滴らせながら
立っていた。ばつが悪くなったアイーシャは、首を横に振って
手を引っ込めた。
「それは、白夜の剣という。私の宝物だ」
そう言って微笑むと、アイーシャはもう一度首を横に振った。
「ねぇ、お腹すいてるでしょ。大したものはないけど、食べてよ」
二人して椅子に座り、食事を始めた。注がれたスープを飲んで
一息ついてから、彼が尋ねた。
「お前のような子供が、一人で暮らしているのか?」
「…父も母も、流行り病で死んだわ。7つの時だった。
それからずっと一人で生きてきたわ」
それでやけに大人びた口調なのかと、彼はひとり納得していた。
料理にしろ、湯浴みの支度にしろ、12〜3歳くらいの少女に簡単に
できることではない。
何もかもひとりでしなければならないから、早く大人になるしか
なかったのだ。
「…あ、ねぇ、アタシ、アイーシャ。あんた名前は?」
湿っぽくなりかけた雰囲気を何とかしようと、アイーシャは
彼の名前を訊いた。すると彼は苦笑いして困っている。
「どうしたのよ?」
「…忘れたのだ。名前も…過去も…すべて」
「どういう…こと…?」
「気が付いたら、剣を抱きしめて倒れていた。だから何もわからぬ。
ただこの剣で命をつないできた。それだけだ」
記憶を失ったことを、何とも思っていないようだ。少なくとも、
アイーシャにはそう見えた。
「でも、名前がないのは不便だから、アタシがつけてあげるわ」
「ほう…なんという名前だ?」
アイーシャは少し考えて、
「エシャールで、どう?」
「エシャール?…どういう理由でその名前なのだ?」
食べ終わった食器類を運びながら、アイーシャはいたずらっ子
のように笑った。
「この都の伝説に出てくる、色男の名前よ」
「い…色男??」
その日以来、ふたりの生活は続いている。
死んでいるのかと思ったのだが、近づいてみれば呼吸が聞こえた。
物乞いが死に掛けているならば、何か施さなければなるまい。
そう思ったのだ。
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
アイーシャが声をかけると、彼は薄く目を開いてすぐに閉じた。
「こんなところにいたら、死んじゃうわよ!」
「ほうっておいてくれないか…」
口許に薄笑いを浮かべて言うエシャールの胸座を、アイーシャは
グイッと掴んだ。
「いいからいらっしゃいったら!!」
揺らしたことでエシャールの顔が露になった。
砂にまみれた銀髪が流れ落ちる。埃で汚れてもなお美しい顔が、
胸座を掴んだアイーシャを戸惑わせた。
その様子に、エシャールが微笑んだ。
「わかったよ、お姫様」
帰り着くと、アイーシャはすぐに彼に湯浴みをさせた。
せっかく掃除した家の中を、砂で汚されてはかなわない。
「きれい…」
彼の荷物の中に、剣があった。鎖には見事な装飾が施され、
高価なものであろうとアイーシャにも察しがついた。
「触ってみても、かまわぬぞ」
いつからそこにいたのか、彼が髪から雫を滴らせながら
立っていた。ばつが悪くなったアイーシャは、首を横に振って
手を引っ込めた。
「それは、白夜の剣という。私の宝物だ」
そう言って微笑むと、アイーシャはもう一度首を横に振った。
「ねぇ、お腹すいてるでしょ。大したものはないけど、食べてよ」
二人して椅子に座り、食事を始めた。注がれたスープを飲んで
一息ついてから、彼が尋ねた。
「お前のような子供が、一人で暮らしているのか?」
「…父も母も、流行り病で死んだわ。7つの時だった。
それからずっと一人で生きてきたわ」
それでやけに大人びた口調なのかと、彼はひとり納得していた。
料理にしろ、湯浴みの支度にしろ、12〜3歳くらいの少女に簡単に
できることではない。
何もかもひとりでしなければならないから、早く大人になるしか
なかったのだ。
「…あ、ねぇ、アタシ、アイーシャ。あんた名前は?」
湿っぽくなりかけた雰囲気を何とかしようと、アイーシャは
彼の名前を訊いた。すると彼は苦笑いして困っている。
「どうしたのよ?」
「…忘れたのだ。名前も…過去も…すべて」
「どういう…こと…?」
「気が付いたら、剣を抱きしめて倒れていた。だから何もわからぬ。
ただこの剣で命をつないできた。それだけだ」
記憶を失ったことを、何とも思っていないようだ。少なくとも、
アイーシャにはそう見えた。
「でも、名前がないのは不便だから、アタシがつけてあげるわ」
「ほう…なんという名前だ?」
アイーシャは少し考えて、
「エシャールで、どう?」
「エシャール?…どういう理由でその名前なのだ?」
食べ終わった食器類を運びながら、アイーシャはいたずらっ子
のように笑った。
「この都の伝説に出てくる、色男の名前よ」
「い…色男??」
その日以来、ふたりの生活は続いている。
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