第一元帥府を出たジュリアスは、帝立医大病院に来ていた。最後の消毒のためである。
「さすがはお若いですね。あれほどの傷を1ヶ月足らずで治してしまわれるとは…鍛えておられるのでしょうな」
 海軍病院の主治医の同級生というこの医師は、ジュリアスの細身に見えて筋肉がしっかりとついている肩にガーゼを貼りながら言った。ジュリアスはその言葉にカッターの前を留めながら苦笑した。
「特別なことは何も。サーベルを振り回しているだけですよ。…ではこれで終わりということでいいでしょうか」
「結構ですよ。今日の入浴の折にでも、ガーゼははずしてください。傷は完璧に塞がっていますので」
「ありがとう。…では失礼」

 思ったより早く終わってしまった。元帥府には戻りたくないし、さてどうしてくれようかと迷った視線の先に、カフェが見えた。見た所、上流階級しか出入りがないらしい。ここならば静かに過ごせるだろう。病院での待ち時間用に購入した本がまだ読みかけだ。
 読み終わるまでゆっくりしようと思い、カフェに向かおうとしたところで人垣を見つけた。
『何だ?』
 見に行くとは自分も余程の物好きだと思いながら、それでも素通りするのは帝国軍人として躊躇われた。
 人垣の中心にいたのは、母親と子供だった。
「坊や、坊や。目を開けてぇっ」
 道の真ん中で、若い母親が子供を抱いて揺さぶっている。ジュリアスは人混みを押し退けて、母親から子供を取り上げた。
「揺らすな、馬鹿者!」
 マントをはずして幼い身体を包み、呼吸を確認する。額から血が流れているが、そこまで深い傷ではないようだ。命に別状はないだろう。
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