| Home |
2005.12.01
蒼の都の物語・50
エシャールの部屋の前までくると、レイアは一度深呼吸をした。アイーシャは
眠ったらしい。窓辺にはエシャールしかいない。
眠ったらしい。窓辺にはエシャールしかいない。
「エシャール様!」
飛び込むように部屋に入ってきたレイアを、エシャールは溜息をついて見やった。
「静かにしてくれないか、レイア。アイーシャが眠ったところなんだ」
いつもアイーシャが眠るのを見計らうように入ってくるレイアにはエシャールも
ほとほとうんざりしていた。それでもこの屋敷に世話になっている以上は冷たく
あしらうわけにもいかず、扱いに困っていたのである。
「ねぇ、エシャール様。アイーシャさんは、本当に目覚めるのかしら」
「…何?」
「いつ目覚めるのかわからない許婚なんて、付き合っていくのはきっと大変だわ。
いつまでこんな生活をしていくおつもりなの?」
レイアの言葉に、エシャールの冷静な心が漣をたてた。
「私は彼女が目覚めるのを待つだけだ。何年かかろうとな。彼女に愛を囁ける日まで」
冷たい声で完全に拒絶されたレイアは、窓辺に腰掛けていたエシャールに無理やり
抱きついた。
「執政官家の婿なんて、そう簡単になれるものではなくてよ、エシャール様。
アイーシャさんが目覚めるまででもかまわない。レイアの傍にいて」
「やめないか、レイア」
足が不自由な状態で、レイアを押しのけようとしたがなかなか離れない。本気で力を
入れかけたところで、助けが入った。
「レイア!何てはしたない!!」
レイアの母が甲高く叫んでレイアをエシャールから離した。
「止めないで、お母様!レイアの王子様をやっと見つけたのよ!!」
「執政官家の娘がそのような真似をしてはなりません!それにエシャール様は…」
言いかけたところで、口ごもる。
「…お母様?」
「エシャール様には、許婚がいらっしゃるんだから…」
何か奥歯に物の挟まった言い方である。エシャールもそれに気づいて問いただそうと
したところで、微かに、声が聞こえた。
「エ…シャール…」
エシャールは松葉杖を放り出し、寝台のアイーシャに駆け寄った。
「アイーシャ、私だ。わかるか?」
優しく頬に手をあてて声を震わせるエシャールに、アイーシャは泣きながら微笑んだ。
「エシャール…アタシの大好きな人…」
「アイーシャ!」
レイアやその母親がいることなど忘れて、エシャールはアイーシャを抱きしめた。
アイーシャの華奢な手がエシャールの背中にまわる。
「お前が私の腕の中で笑っているのが、こんなに幸せなことだなんて思わなかった…。
もうどこにも行かないでくれ…」
泣きそうな声でエシャールが言う。アイーシャはもう何も言えずにただ頷くだけだった。
「…レイア、もういいでしょう?お二人にして差し上げなさい」
ふたりを悔しそうに見ていたレイアだったが、母に引きずられるように出て行った。
レイア母娘が出て行ったことにさえ気づかないまま、エシャールはしばらく
アイーシャを離さなかった。
やっと目覚めたアイーシャを、二度と遠くへやらないように…。
飛び込むように部屋に入ってきたレイアを、エシャールは溜息をついて見やった。
「静かにしてくれないか、レイア。アイーシャが眠ったところなんだ」
いつもアイーシャが眠るのを見計らうように入ってくるレイアにはエシャールも
ほとほとうんざりしていた。それでもこの屋敷に世話になっている以上は冷たく
あしらうわけにもいかず、扱いに困っていたのである。
「ねぇ、エシャール様。アイーシャさんは、本当に目覚めるのかしら」
「…何?」
「いつ目覚めるのかわからない許婚なんて、付き合っていくのはきっと大変だわ。
いつまでこんな生活をしていくおつもりなの?」
レイアの言葉に、エシャールの冷静な心が漣をたてた。
「私は彼女が目覚めるのを待つだけだ。何年かかろうとな。彼女に愛を囁ける日まで」
冷たい声で完全に拒絶されたレイアは、窓辺に腰掛けていたエシャールに無理やり
抱きついた。
「執政官家の婿なんて、そう簡単になれるものではなくてよ、エシャール様。
アイーシャさんが目覚めるまででもかまわない。レイアの傍にいて」
「やめないか、レイア」
足が不自由な状態で、レイアを押しのけようとしたがなかなか離れない。本気で力を
入れかけたところで、助けが入った。
「レイア!何てはしたない!!」
レイアの母が甲高く叫んでレイアをエシャールから離した。
「止めないで、お母様!レイアの王子様をやっと見つけたのよ!!」
「執政官家の娘がそのような真似をしてはなりません!それにエシャール様は…」
言いかけたところで、口ごもる。
「…お母様?」
「エシャール様には、許婚がいらっしゃるんだから…」
何か奥歯に物の挟まった言い方である。エシャールもそれに気づいて問いただそうと
したところで、微かに、声が聞こえた。
「エ…シャール…」
エシャールは松葉杖を放り出し、寝台のアイーシャに駆け寄った。
「アイーシャ、私だ。わかるか?」
優しく頬に手をあてて声を震わせるエシャールに、アイーシャは泣きながら微笑んだ。
「エシャール…アタシの大好きな人…」
「アイーシャ!」
レイアやその母親がいることなど忘れて、エシャールはアイーシャを抱きしめた。
アイーシャの華奢な手がエシャールの背中にまわる。
「お前が私の腕の中で笑っているのが、こんなに幸せなことだなんて思わなかった…。
もうどこにも行かないでくれ…」
泣きそうな声でエシャールが言う。アイーシャはもう何も言えずにただ頷くだけだった。
「…レイア、もういいでしょう?お二人にして差し上げなさい」
ふたりを悔しそうに見ていたレイアだったが、母に引きずられるように出て行った。
レイア母娘が出て行ったことにさえ気づかないまま、エシャールはしばらく
アイーシャを離さなかった。
やっと目覚めたアイーシャを、二度と遠くへやらないように…。
| Home |


