「ケント!!」
 ジュリアスは戦況盤を睨んだまま、無線機の前で命令を出していたケントを呼んだ。滅多にケントを呼び捨てたりしないジュリアスに驚きながら、ケントは駆け戻って来た。
「どうした?」
「火炎放射器はあるか?」
「もちろん準備している。必要か?」
「我が第一師団に、5台ほどまわしてくれないか?」
 火炎放射器など、何に使う気なのだろう。もちろん戦闘のためではあるだろうが、一体どうするつもりで言っているのか。ロイドはペンを走らせながら考える。第一師団に、火炎放射器を扱える兵士などいないはずだ。
「それはかまわないが、扱えるのか?陸軍兵士が」
 ジュリアスは表情を変えない。そしてはっきりと言う。
「心配ない。私の部下だ」
「…わかった。すぐに持って来させよう」
 今のジュリアスの言葉を聞いていたなら、第一師団の兵士達はどんなに嬉しかっただろう。いつも海軍中将のジュリアスと陸軍の第一師団、と線引きをされていた兵士達。訓練を重ねていくうちに、ジュリアスが評価してくれるようになったのだろうか。
 ジュリアスが陸軍に来てから、5ヶ月になる。前回の対王国戦でもジュリアスは第一師団のことをロイドに少し褒めてはいたのだが、『自分が指揮していたら当然』という言い方だったので、大して認めてはいないのだろうと思っていた。
 それが、さっきの一言である。「陸軍の兵士達」という言い方はしても、一度も「私の部下」だとは言ったことはなかった。しかも、海軍の、ジュリアスをよく知っているケントに対してだ。
 ロイドはそれが嬉しくて、第一師団の、せめて小隊長クラスまでには伝えたかった。
「セイジェル閣下、第一師団へのご命令はございますか?」
 ロイドの声の高さが少し違うことにジュリアスは気付いたが、それには触れずに煙草を銜えた。
「…そう急くな。お前は戦争の仕方を知らなさすぎる。作戦参謀としてこの先やっていくつもりなら、もう少し落ち着いて戦況を見るべきだ。…それとも、何か伝えたいことでもあるのか?連中に」
「いえ…その…」
「まあいい。まだ戦局は大きくは動かない。連中の様子を見てこい。すぐに戻れよ」
「は、はい!」
 ロイドが何を伝えるつもりなのか。ジュリアスはわかっていた。今回は火炎放射器を使うこと。第一師団が今回の鍵を握っていること。
 そして、ジュリアスがケントに対して第一師団を「私の部下」と言ったこと。
「全く…」
 ジュリアスは苦笑しながら紫煙を吐いた。
「甘くなったものだ、私も…」
 戦況盤の駒に手を伸ばす。第一師団の駒が、動いた。
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