「全員、特に重傷者もなく、そして戦死者もなく初日を終えることができた。褒めてやろう」
 ようやく落ち着いた兵士達を前に、ジュリアスは腕組みしたまま言った。到底褒めてくれているとは思えない表情である。せっかくいい空気だったのに、兵士達が命令にすぐに従わなかったためにほんの少し動くのが遅ければ戦死者多数という事態に陥りかけたのだから当然といえば当然なのだが。
 そしてジュリアスのあまりにも的確な命令に、慄然としていることも兵士達を怯えさせていた。的確に指示を出し、しかもその予想は間違いなく的中する。まるで戦争の行方をわかっている神のようにも思える。
「…どうした?前の戦争では味わえなかった思いを味わって、もうお腹いっぱいといったところか?」
 クッと笑い、ジュリアスはロイドが用意した椅子に座った。優雅に足を組み、兵士達を見据える。
「まぁいつもいつもこんな風に勝てるわけじゃない。今日はたまたま条件が揃い、私がお前達にいい見せ場を作ってやろうと思っただけだ。わかるか?…私がいてもいなくても、当たる作戦をたてて戦えるようになってもらう」
 いても、いなくても。
 その言葉に一番反応したのはロイドだった。昼間ケントが口走った、「元帥」という一言。ジュリアスは不確定な情報だと一蹴したが、あれは恐らく決定に限りなく近い未定の言葉だ。
 もちろん、ジュリアスは海軍中将なのだから、いつまでも陸軍にいるわけではないことくらいわかっている。だが、今それを思い知らされるのは残酷な気がした。
「…休んでいい」
 ジュリアスはそう言うと、兵士達の前からすぐに姿を消した。ぐったりとした兵士達だったが、何とか就寝準備を始める。その様子を見届けてから、ロイドはジュリアスを追いかけた。
「セイジェル閣下…」
 昼間は応えてくれたジュリアスだったが、今度は振り返るだけだった。その表情に足が竦む。機嫌が悪いだけではない。今彼が纏う空気は、機嫌の悪さだけではない…。
「…昼間のケントの言葉を気にしているのか、ロイド」
「…閣下…」
 ジュリアスは基地の外に出た。さっきまでの喧騒はそこにはない。波の音が微かに聞こえる程度で、静寂が世界を支配している。
「来期から、海軍に新しい元帥府が創設される。その元帥の椅子が、私に用意されている。ケントが言ったことは、あと半年もすれば事実になるだろう」
「やはり…本当なんですね…。海軍の…元帥になられるのですね…」
「どうした。私は海軍から転籍するつもりはないと最初から知っているだろう。…いつまでも陸軍にいるとでも思っていたのか?」
 意地悪な質問だ。ロイドは思った。
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