「…で、セイジェル中将の様子はどうかね、ロイド中佐」
 陸軍第一元帥府に久々に顔を出したロイドはすぐにゴルデン総司令官に呼び出された。最初はゲノアに報告をしたらすぐにジュリアスがいる別荘に戻るつもりでいたのだが、ゴルデンがゲノアに電話をかけてきてロイドがいるのが知れたのである。
「もうそろそろ歩けるのではないかと、閣下ご自身はおっしゃっています」
「そうか。復帰にはどのくらいかかりそうかな」
「私が見たところ、あと2ヶ月はかかるのではないかと…」
「ふむ…2ヶ月か…まぁ戦争もしばらくはないだろうし、ゆっくり養生するように伝えてくれ」
 本当はもう歩いているのだ、ジュリアスは。ただ、帝都に戻ることをひどく怖れている。暗闇と波の音、そして…。
『しばらく機銃を見るのも嫌だ』
 そう言ったのだ。あの戦争で勝利することでしか自分の存在価値を見出せないとまで言いきったジュリアスが。
 その言葉がどれほどに重いものであるのか、ロイドにはわかっている。常に傍に置いていたサーベルでさえ、ベッドから遠くに置くほどなのだ。
 時折顔を見せにくるダインにレジオノーラの様子や海軍の状況を訊いたりもするのだが、あまり深いところまでは訊こうとはしない。意識的に戦争から離れようとしているように見えた。
 穏やかな日もあれば、クレスティアを拒絶する日もある。そしてそんな不安定な自分を持て余して荒れることも。
 これまでほとんどと言っていいほど挫折や恐怖とは無縁だったのだ。ようやく人らしい感情を手にしたとも言えるのだろうが、それは常勝司令官であるジュリアスには永遠に無縁でありたかったはずである。傍にいて見守るロイドも辛い。
「ゲノア元帥は何か言っていたかね?」
「いえ、特には。セイジェル閣下の一日も早い回復を待っていると、それだけでしたが」
「そうか…。まぁいい。貴殿もあのセイジェル中将の相手をするのは大変だろうが、がんばってくれ」
「決して大変とは思いませんが…。全力であたらせていただきます。では、失礼を」
 敬礼して執務室を出る。大きな溜息をひとつ。
 ロイドは何となく気になって、ジュリアスの執務室に行くことにした。頼まれていた資料があったわけではないが、何かあればと思って寄ったのである。
「…これは…」
 ドアノブに引っ掛けられた紙袋が目に止まった。中を見ればたくさんの封書。ロイドはいくつかを見て内容をすぐに悟った。
 第一師団の部下達がジュリアスにあてた手紙なのだ。ジュリアスの一日も早い復帰を願っての。ロイドは紙袋を大切そうに抱きかかえ、元帥府を後にした。
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