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2007.12.03
眠れない夜を紡いで・135
戻って来たとはいっても、ジュリアスの体調は決して万全というわけでもなく、帝立医大病院に通いながらの陸軍生活である。
「…それにしても驚異的な回復力ですね、セイジェル閣下」
海軍病院の主治医に紹介状を書かせ、この病院の外科部長に診てもらっているのだが、通院のたびにぐんぐん回復していくジュリアスに外科部長は驚くばかりである。
「軍服を着ている方が、回復しやすいのだろう。私は根っからの軍人だということなんだろうな」
「それにしても…、海に落ちられたというのにこれほど早く、しかも後遺症もなく…。どんな身体構造なのか見せていただきたいくらいです」
ジュリアスは薄く笑う。大学病院の医者は、自分を研究材料にしたがって困る。海軍病院の医師などはそのようなことは無駄と思うのか、とにかく早くジュリアスを治すことに専念してくれるのだが。
「歩行の際にどこか痛みはありませんか?」
「いや。特にないが…。少し左肩が上がりにくい気はする」
「わかりました。少し様子をみましょう。骨には特に異常はありませんから、なるだけ左腕を使うよう心がけてみて下さい。無理のない程度に。次は2週間後で結構ですよ」
「わかった。では2週間後に」
この怪我が完治すればいよいよ海軍に戻れる。帝国軍創始以来最年少の元帥として。いずれはカストラル帝国軍総司令官の椅子を目指して。
ジュリアスは元帥の軍服を纏った自分を少し想像して、すぐに頭から打ち消した。
「ばかばかしい…」
浮かれている自分がどうにも恥ずかしくなったのである。誰が見ているというわけでもないのに。
「セイジェル中将?ご通院は終わりですの?」
名前を呼ばれて振り返る。秋の花束を携えて、皇女グレイス・マデリーンが立っていた。
「皇女殿下…」
「離宮の祖母を訪ねるところなのです。少しご一緒させていただけますかしら」
皇帝の母が住まう離宮まではここから歩いて15分ほどのところにある。どうもグレイスは皇宮から徒歩でここまで来たらしい。
「歩いておいでになるんですか?お車なのでは?しかもお供もつけずに…」
「車は使いませんの。帝都の中を走ると仰々しくなりますから。歩いて行けるところには極力歩いていくようになりました。皇宮から離宮までそんなに距離はありませんでしょう?明るいうちに動くからと言い聞かせて、供は連れずにおります。いつも見張られているのは窮屈ですもの」
「…では離宮までお送りしましょう」
何故そんな言葉が口をついて出たのか、ジュリアス自身にも意外だったが、言ってしまったものは仕方ない。嬉しそうに微笑むグレイスを歩道側に立たせて、自分は車道側を歩き始めた。
「中将、報告が遅れましたけれど…。私、大学を無事に卒業できました」
「そうですか。おめでとうございます。…煙草を吸っても…?」
「ええ、どうぞ」
煙草を銜えて火をつけるジュリアスを、グレイスは相変わらずうっとりと見上げる。自然とジュリアスの歩みは速くなった。
「…中将?」
「ああ、失礼。軍人の歩き方では皇女殿下には速すぎましたね。…皇太后陛下はどこかお加減でも?」
話を逸らして紫煙を吐き出す。グレイスはそんなジュリアスを見ても微笑むだけだ。
「いいえ。元気ですわ。ご機嫌伺いですの。折りに触れて、祖母を訪ねるようにしています。父がなかなか顔を出せずにいますので、私が代わりに」
「そうですか…」
離宮までもっともっと距離があればいいのに。グレイスはもどかしく思いながら、それでもジュリアスと一緒に歩けているという喜びで笑顔のままであった。
海軍病院の主治医に紹介状を書かせ、この病院の外科部長に診てもらっているのだが、通院のたびにぐんぐん回復していくジュリアスに外科部長は驚くばかりである。
「軍服を着ている方が、回復しやすいのだろう。私は根っからの軍人だということなんだろうな」
「それにしても…、海に落ちられたというのにこれほど早く、しかも後遺症もなく…。どんな身体構造なのか見せていただきたいくらいです」
ジュリアスは薄く笑う。大学病院の医者は、自分を研究材料にしたがって困る。海軍病院の医師などはそのようなことは無駄と思うのか、とにかく早くジュリアスを治すことに専念してくれるのだが。
「歩行の際にどこか痛みはありませんか?」
「いや。特にないが…。少し左肩が上がりにくい気はする」
「わかりました。少し様子をみましょう。骨には特に異常はありませんから、なるだけ左腕を使うよう心がけてみて下さい。無理のない程度に。次は2週間後で結構ですよ」
「わかった。では2週間後に」
この怪我が完治すればいよいよ海軍に戻れる。帝国軍創始以来最年少の元帥として。いずれはカストラル帝国軍総司令官の椅子を目指して。
ジュリアスは元帥の軍服を纏った自分を少し想像して、すぐに頭から打ち消した。
「ばかばかしい…」
浮かれている自分がどうにも恥ずかしくなったのである。誰が見ているというわけでもないのに。
「セイジェル中将?ご通院は終わりですの?」
名前を呼ばれて振り返る。秋の花束を携えて、皇女グレイス・マデリーンが立っていた。
「皇女殿下…」
「離宮の祖母を訪ねるところなのです。少しご一緒させていただけますかしら」
皇帝の母が住まう離宮まではここから歩いて15分ほどのところにある。どうもグレイスは皇宮から徒歩でここまで来たらしい。
「歩いておいでになるんですか?お車なのでは?しかもお供もつけずに…」
「車は使いませんの。帝都の中を走ると仰々しくなりますから。歩いて行けるところには極力歩いていくようになりました。皇宮から離宮までそんなに距離はありませんでしょう?明るいうちに動くからと言い聞かせて、供は連れずにおります。いつも見張られているのは窮屈ですもの」
「…では離宮までお送りしましょう」
何故そんな言葉が口をついて出たのか、ジュリアス自身にも意外だったが、言ってしまったものは仕方ない。嬉しそうに微笑むグレイスを歩道側に立たせて、自分は車道側を歩き始めた。
「中将、報告が遅れましたけれど…。私、大学を無事に卒業できました」
「そうですか。おめでとうございます。…煙草を吸っても…?」
「ええ、どうぞ」
煙草を銜えて火をつけるジュリアスを、グレイスは相変わらずうっとりと見上げる。自然とジュリアスの歩みは速くなった。
「…中将?」
「ああ、失礼。軍人の歩き方では皇女殿下には速すぎましたね。…皇太后陛下はどこかお加減でも?」
話を逸らして紫煙を吐き出す。グレイスはそんなジュリアスを見ても微笑むだけだ。
「いいえ。元気ですわ。ご機嫌伺いですの。折りに触れて、祖母を訪ねるようにしています。父がなかなか顔を出せずにいますので、私が代わりに」
「そうですか…」
離宮までもっともっと距離があればいいのに。グレイスはもどかしく思いながら、それでもジュリアスと一緒に歩けているという喜びで笑顔のままであった。
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