真夜中。
 エシャールは人の気配で目が覚めた。
 寝台に目をやって、アイーシャが眠っていることを確認すると、
白夜の剣を手に音もなく外に出た。
「…誰だ」
 抜いた刀身を首筋にあてて問い詰める。女の髪が手に触れた。
「ち、ちょっと、アタシよ。アイリスよ」
 よく見れば、酒場で声をかけてきた女だった。
 エシャールは剣を鞘に収め、乱れた髪を気にしているアイリスに
訊いた。実に不機嫌そうに。
「何の用だ」
「何の用はないでしょ?あんたが名前も住んでるところも
言わないから、下男に調べさせたのよ。…アイーシャと
住んでたんだ。あの子の兄貴なの?」
 エシャールは眉を少しだけ吊り上げた。つけられているとは
思っていたが、まさかこの女の差し金だったとは。
 敵意を感じなかったので放っておいたことを少し後悔した。
「用件はそれだけか?帰れ」
 溜息さえ聞こえそうなエシャールの言い様に、アイリスの目が
険しくなる。
「ちょっと待ちなさいったら!あんた一体誰を振ってるかわかってるの?
 空の都で一番の美人と言われているアイリスよ?」
「それがどうした?」
 冷え切ったエシャールの声が、アイリスの動きを止めた。
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