離宮近くに設けられている陸軍の詰所に到着すると、ジュリアス達はまっすぐに一番奥の部屋に向かった。
 突然現れたジュリアスに騒然とする中を、何も言わずに進んでいく。
「ここか」
「はい。元帥閣下をお通しするような部屋ではありませんが…」
 男を拘束していて手が塞がっているコーデルの代わりに扉を開ける。普段は中将など指揮官クラスが来た時に使う部屋のようだ。
「構わん。煙草が吸えれば十分だ」
 そう言うと、ジュリアスは応接用のソファに静かに身体を沈め、足を組んだ。
「お前はそっちに座れ。もうすぐロイドも追いついてくるだろう。とりあえずここで話を聞かせてもらおうか」
 向かい側を示し、コーデルと男を座らせる。煙草を銜えて火をつけると、それきりジュリアスは口を閉ざしてしまった。
 話を聞くと言った割に、いっこうに話しだす気配もない。男は訝しげにジュリアスを見ていたが、ジュリアスは男の視線に気付いているはずなのに目を合わせようともしない。それどころかたまたま胸ポケットに入れていたらしい書類に目を通し始め、何も言わないのである。
 だんだんと苛立ってくる。隣のコーデルを見るが、彼も特に気にした風もなくじっと座っている。
「閣下、車の方、撤収完了しました」
 気を利かせたロイドがコーヒーをいれて入ってきた。ジュリアスとコーデルの分だけである。ジュリアスはそれを無言で受け取り、一口飲むとまた書類に目を落とす。
「お、おい…いい加減にしろよ。何も訊かないのかよ」
 とうとう痺れを切らした男がジュリアスに問いかける。ジュリアスはようやく顔を上げて、首を傾げた。
「何か貴様に訊く必要があるのか?別に話を聞いても聞かなくても、貴様は投獄される身だ」
「はぁ??」
「不敬罪でな。まあ数年は投獄されると思っておいた方がいい。私が逮捕したとなれば、特に手続きもせずにそのまま牢獄に繋がれるだけだし。別に貴様の話など、どうでもいいことだ」
 男は慌てた。事情聴取も何もなく投獄が決定されるなど、聞いたことがない。第一、この帝国でそのようなことが許されるはずがないのだ。
「あ、あんたにそんな権限があるはずが…!」
「ないわけないだろう。婚約者に危害を加えるかもしれない人間を捕まえて、投獄することに誰が反対すると言うんだ。第一私の婚約者は皇帝陛下の最愛の第三皇女。帝国を挙げての慶事の前に、不祥事などあってはたまらぬ。海軍元帥という地位に権限はなくても、レーヴェンローデ公爵には権限があるわけだ」
 ジュリアスは口許だけで笑う。男は心底寒気がしてきた。本気だ。ジュリアスは本気でこのまま自分を投獄する気だ…。
「私は大抵のことが許される地位にある。残念だったな、私に捕まって。ロイド、手配を」
「かしこまりました。どちらの牢獄に連絡をすればよろしいでしょうか」
「…西の牢獄がいいな」
「はい」
 西の牢獄は、帝都からかなり離れた国境地帯にある。砂漠に建てられた牢獄で、夏は身を焼かれるほどの暑さ、冬は凍り付いてしまうような寒さに耐えなければならない。劣悪な環境下で、どれほどに神経が図太い犯罪者でも1ヶ月と保たないと言われている。
「禁固がよろしいでしょうか」
「他に何がある」
「はい」
 石造りの独房から、一歩も出られないということか。男の顔はみるみる蒼白になっていった。ジュリアスは取り調べる気が全くない。こちらから何も言わなければ本当にこのまま西の牢獄におくられてしまう。
「ま、待ってくれ。話す。洗いざらい話す!決して皇女殿下に危害を加えるつもりなどなかったのだ。証明だってできる!!」
 ジュリアスは男をじっと見ていたが、足を組み替え、鼻で嗤った。
「…フン…。つまらぬ。どこまで耐えきれるかと思ったが、この程度で音を上げたか。ロイド、記録を」
「かしこまりました」
 背中を冷たい汗が流れ落ちる。コーデルの言った通りだ。正気ではいられない。無理だ。
「…ロイド、水でも飲ませろ。これでは話せまい」
「はい」
 差し出された冷えた水を一気に飲み干し、男は煙草を銜えてこちらを見つめるジュリアスと視線を合わせた。
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