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2008.06.16
眠れない夜を紡いで・217
司令官を失った共和国軍だったが、何とか体勢を立て直し、全滅だけはかろうじて免れて退却していった。
「…フン。まあ、優れた副司令がいたか、総司令部からの命令がうまく通ったということなんだろう」
すでに日付が変わろうかという頃に齎されたその報せに、ジュリアスは不満そうに答えた。
「今日中の敗北宣言はないな。明日の作戦を考える。ダイン、情報官は別室に待機させておけ」
「かしこまりました」
戦況盤を前に、ジュリアスは足を組んだ。右手の人差し指をこめかみにあてて、熟考に入る。こうなるともう大抵の物音には反応しなくなる。
ジュリアスの傍らに立っていたロイドは、緊迫した空気に身動きができずにいた。早く何か命じてくれと思うが、ジュリアスは微動だにしない。
『多分、明日も海軍中心で攻めてくるだろう。数だけなら相当なものだ。そして空からも飛ばしてくるだろう。新型ではなく旧型だろうが…。それでも速度は帝国空軍とあまり変わらない。それを撃墜するだけの腕がレジオノーラ以外の戦艦にあるかどうか…。第五元帥府は大丈夫だとしても、第三元帥府がどうだかな…』
小さく、溜息。早く第五元帥府だけでも出撃できる規模にしなければ。他の元帥府が一緒だと、戦いにくい。戦力も戦績も、日々こなしている訓練も、明らかに違うのだ。他の師団が休暇でもジュリアスの師団はほとんど休みがなかったし、朝の集合もよその師団より早い。新任研修とさほど変わらない程度の訓練しかしないよその師団と、最下の二等兵までが座学で戦法を叩き込まれるジュリアスの師団では差があり過ぎた。
『なるだけ早く海軍総司令官にならなければ。世界最強の海軍を、この私の手で造り上げてやる』
戦況盤の駒をいくつか動かす。明日もリスティ率いる空軍特攻隊には出てもらわねばなるまい。
『今日と同じ戦法はできない。すでに共和国側には私がレジオノーラで出撃していることが知れているだろうからな…。明日は最前線から下がっておこう。後方で待つとするか…。いや…』
もし、共和国軍が南側を迂回してきたら?今の配備状況だと、背後を突かれることになる。南側に向けて第二大隊を配備し、それと背中合わせに第一大隊を配備しておけば北から来ても南から来てもとりあえずは迎撃ができる。
『第三元帥府はこちらから詳しく作戦を説明しなければ動けないだろうな…。それなら今夜のうちに配備してしまった方がいいか…』
更に戦況盤の駒が動く。現在の配備状況から明らかに違う陣形になっている。覗き込んだロイドはその形を必死でノートに書き留めていた。
「ロイド、書き留めたらそれをそのまま別室にいる情報官に見せて来い。今すぐ第三元帥府全軍を南側に配備。共和国軍が攻めてくるであろう北側ではなく、南側を向いて停泊しておけと。第五元帥府は北側に、北を向いて配備。中央にレジオノーラを置いて、その周りを固めろ。明日の作戦については、明日また通達する。今日は第五元帥府の方で警戒を行うのでとりあえず第三元帥府は仮眠を取るように」
「はい。すぐに行ってきます」
「それからダイン。空軍に連絡をして、今夜のうちに第五元帥府の空母に待機しておくように言ってくれ。リスティの特攻第一部隊だけでいい。シルバー元帥には、後日またゆっくりお礼に伺うと伝えろ」
「かしこまりました」
二人がそれぞれに動き出すと、ジュリアスは椅子にもたれた。
『この席から夜空を見上げるのも久しぶりだ…』
第四小隊を失って以降、今日までレジオノーラの中に入ることさえなかった。もし、第四小隊のことを乗り越えることができていないままなら、ここには座れなかったかもしれない。未だに陸軍にいたままかもしれなかったし、退役を選択していたかもしれない。この一年と少しの間で、自分はいろんなものを失い、手に入れたように思う。
『長かったようで短かったな…』
微かに聞こえてくる波の音が、心地よい。怯えていたのは昨日のことのようなのに。
「…少し、休む」
「あ、はい。すぐに支度します」
ジュリアスの小さな呟きを逃さずにロイドが動く。艦内で動くことにはもう慣れたようだ。
「慣れたか、私の女神には」
指揮官室に向かいながらジュリアスが訊くと、ロイドは笑った。
「はいっ」
「お前は順応性が高いんだな。海軍に慣れるのも早かったし。その軍服も…似合うようになった」
「はは。ありがとうございます。正直、7歳の時から陸軍の色しか知らなかったので、私に閣下と同じ白い軍服が似合うのかどうか不安だったんですけど…。形も違いますし。でも、襟元を留めたら気持ちが引き締まるって閣下の言葉が最近理解できるようになりました」
「そうか…。お前を連れてきて、よかったようだな。…おやすみ」
ロイドは思わぬ言葉をもらい、満面の笑みで敬礼した。
「おやすみなさい!」
閉じた扉は、涙で少しぼやけていた。
すでに日付が変わろうかという頃に齎されたその報せに、ジュリアスは不満そうに答えた。
「今日中の敗北宣言はないな。明日の作戦を考える。ダイン、情報官は別室に待機させておけ」
「かしこまりました」
戦況盤を前に、ジュリアスは足を組んだ。右手の人差し指をこめかみにあてて、熟考に入る。こうなるともう大抵の物音には反応しなくなる。
ジュリアスの傍らに立っていたロイドは、緊迫した空気に身動きができずにいた。早く何か命じてくれと思うが、ジュリアスは微動だにしない。
『多分、明日も海軍中心で攻めてくるだろう。数だけなら相当なものだ。そして空からも飛ばしてくるだろう。新型ではなく旧型だろうが…。それでも速度は帝国空軍とあまり変わらない。それを撃墜するだけの腕がレジオノーラ以外の戦艦にあるかどうか…。第五元帥府は大丈夫だとしても、第三元帥府がどうだかな…』
小さく、溜息。早く第五元帥府だけでも出撃できる規模にしなければ。他の元帥府が一緒だと、戦いにくい。戦力も戦績も、日々こなしている訓練も、明らかに違うのだ。他の師団が休暇でもジュリアスの師団はほとんど休みがなかったし、朝の集合もよその師団より早い。新任研修とさほど変わらない程度の訓練しかしないよその師団と、最下の二等兵までが座学で戦法を叩き込まれるジュリアスの師団では差があり過ぎた。
『なるだけ早く海軍総司令官にならなければ。世界最強の海軍を、この私の手で造り上げてやる』
戦況盤の駒をいくつか動かす。明日もリスティ率いる空軍特攻隊には出てもらわねばなるまい。
『今日と同じ戦法はできない。すでに共和国側には私がレジオノーラで出撃していることが知れているだろうからな…。明日は最前線から下がっておこう。後方で待つとするか…。いや…』
もし、共和国軍が南側を迂回してきたら?今の配備状況だと、背後を突かれることになる。南側に向けて第二大隊を配備し、それと背中合わせに第一大隊を配備しておけば北から来ても南から来てもとりあえずは迎撃ができる。
『第三元帥府はこちらから詳しく作戦を説明しなければ動けないだろうな…。それなら今夜のうちに配備してしまった方がいいか…』
更に戦況盤の駒が動く。現在の配備状況から明らかに違う陣形になっている。覗き込んだロイドはその形を必死でノートに書き留めていた。
「ロイド、書き留めたらそれをそのまま別室にいる情報官に見せて来い。今すぐ第三元帥府全軍を南側に配備。共和国軍が攻めてくるであろう北側ではなく、南側を向いて停泊しておけと。第五元帥府は北側に、北を向いて配備。中央にレジオノーラを置いて、その周りを固めろ。明日の作戦については、明日また通達する。今日は第五元帥府の方で警戒を行うのでとりあえず第三元帥府は仮眠を取るように」
「はい。すぐに行ってきます」
「それからダイン。空軍に連絡をして、今夜のうちに第五元帥府の空母に待機しておくように言ってくれ。リスティの特攻第一部隊だけでいい。シルバー元帥には、後日またゆっくりお礼に伺うと伝えろ」
「かしこまりました」
二人がそれぞれに動き出すと、ジュリアスは椅子にもたれた。
『この席から夜空を見上げるのも久しぶりだ…』
第四小隊を失って以降、今日までレジオノーラの中に入ることさえなかった。もし、第四小隊のことを乗り越えることができていないままなら、ここには座れなかったかもしれない。未だに陸軍にいたままかもしれなかったし、退役を選択していたかもしれない。この一年と少しの間で、自分はいろんなものを失い、手に入れたように思う。
『長かったようで短かったな…』
微かに聞こえてくる波の音が、心地よい。怯えていたのは昨日のことのようなのに。
「…少し、休む」
「あ、はい。すぐに支度します」
ジュリアスの小さな呟きを逃さずにロイドが動く。艦内で動くことにはもう慣れたようだ。
「慣れたか、私の女神には」
指揮官室に向かいながらジュリアスが訊くと、ロイドは笑った。
「はいっ」
「お前は順応性が高いんだな。海軍に慣れるのも早かったし。その軍服も…似合うようになった」
「はは。ありがとうございます。正直、7歳の時から陸軍の色しか知らなかったので、私に閣下と同じ白い軍服が似合うのかどうか不安だったんですけど…。形も違いますし。でも、襟元を留めたら気持ちが引き締まるって閣下の言葉が最近理解できるようになりました」
「そうか…。お前を連れてきて、よかったようだな。…おやすみ」
ロイドは思わぬ言葉をもらい、満面の笑みで敬礼した。
「おやすみなさい!」
閉じた扉は、涙で少しぼやけていた。
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