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2008.06.18
眠れない夜を紡いで・218
軽くうとうととしただけで、熟睡はできなかった。久しぶりに海の上で寝たということもあるが、頭の芯が冴えて、眠りに落ちることができなかったのである。
カストラル帝国軍の全権が自分に委ねられている。海軍だけでなく、空軍も自分が指揮するのである。
これまでも自分が司令官ではあったが、最終的に全権を握っていたのはトーレス元帥だった。
それが、今は自分が元帥の地位にあって、総指揮官としてレジオノーラの指揮官席にいる。珍しく気持ちが高ぶって、寝てはいられなかった。
『…子供か、私は…』
上着を肩から羽織るだけにして寝台に腰掛ける。ここでだけは喫煙できるようにしてあるので、テーブルに置いていた煙草に手を伸ばす。
『まずまずの初日だったな。まさか午後から戦争を始めることになるとは思わなかったが。…さて、次はどうする、共和国軍…?』
夜半に考えた策は完璧のはずだ。奇襲してきた時にもすぐに対処できるように第五元帥府が警戒をしている。自分が乗っているのは無敗の女神。この紺碧の女神が、帝国を勝利に導いてくれる。
「レジオノーラ、私の女神。この先私が総司令官の地位に上がっても、私はお前に乗って、出撃する。カストラル帝国の戦争が終わらぬ限り、この先もずっと…」
ジュリアスは小さく開けられた窓枠に触れながら、大切な女神に話しかける。中将になってからすぐに手に入れた旗艦だから、もう3年以上の付き合いになる。途中ジュリアスが陸軍に出向していた間も、決してジュリアス以外の指揮官を迎え入れようとはしなかった淑女だ。
「お前は私の宝物だ…。これからも頼むぞ」
そう言って窓に寄りかかると、奇妙な音が聞こえた。
「…レジオノーラ?…お前…教えてくれているのか…」
開け放つことはできないが、ほんの少しなら開けることができる。ジュリアスは音をたてずに窓を開け、耳を澄ました。数瞬の後、口許がニヤリと歪む。
「愛しい女神、お前なしにカストラル帝国の勝利は考えられんな」
煙草を灰皿に押し付けて、完全に消えたことを確認すると窓を閉めた。上着に袖を通し、前は留めないままでマントを脇に抱え、制帽を被る。
「さあ、行こうか、レジオノーラ」
扉を開けると寝ずの番をしていた兵士が慌てて駆け寄ってきた。
「全軍を叩き起こせ。共和国軍の方が早起きらしい。迎撃準備」
「はいっ」
まだ、夜は明けていない。微かに東の空がほの明るくなっているだけだ。その時間、このあたりの海は潮流が変わる。潮の流れが変わる音は、停泊している帝国海軍を混乱させるにはちょうどいいのである。ジュリアスの耳は、しっかりとその音を、聞いた。
艦橋に入ると控え室には戻らなかったらしいダインがジュリアスを待っていた。ジュリアスの格好を見て少し笑う。
「そのままおいでになったのですか。さ、マントを」
「ああ…」
上着の前を留めている間にダインがマントをつけてくれる。支度が終わる頃にはコーヒーを片手にロイドが飛び込んで来た。
「おはようございます!」
「…ああ、おはよう。眠れたか?」
「いえ、何か目が冴えちゃって。でも少し転寝できましたから、大丈夫です」
照れたように笑うロイドが、何だか戦争とは別の世界にいる人間に見えて少しおかしい。
「そうか。…コーヒーを入れる余裕はあったんだな。もらおうか」
ロイドからコーヒーを受け取り、戦況盤に歩み寄る。もうすでに全員が臨戦態勢に入っていた。
「この辺りの潮流のことを忘れていた。さっきレジオノーラに窓に寄りかかって軽く話しかけていたら、音が聞こえてな。奇妙な音が。潮の流れが変わる音と、もうひとつ。小型艦船の音。恐らく潮流が変わる時刻に合わせて、小型艦船だけで編成した部隊が撹乱作戦に入るはずだ。我が帝国の部隊と間違うように船の色も変えていると思う。爆薬を積んでいる無人の艦船があるかもしれん。注意して沈めていけ」
「第三元帥府には囲ませるだけにして、第五元帥府で迎撃にあたりましょう、閣下。その方が恐らく、間違いは少ないと思います」
「ああ、そうだな。私も同感だ、ダイン。後はお前の思うように情報官に伝えてくれ」
「…かしこまりました」
ダインは笑顔のまま、艦橋を出て行った。傍らを見やるとロイドが相変わらず必死でノートに書き留めている。
「いずれ、お前にも作戦参謀を命じる日が来るかもしれん。今のうちだぞ、勉強できるのは。さっきダインに言ったように、私は作戦の全てを語らなくなるからな。悟れるかどうかは、お前次第だ」
「は…はい…」
それはそれで緊張の連続だ。自分の伝え方ひとつで、帝国の勝敗が決まると言っても過言ではない。
「執務官殿は…凄いですね…」
「私の傍で2年も戦い方を見ていれば、わかるさ。自分が余程奇抜なことを言っていると思わない限り、私は全部は言わない。覚悟しておけ、ロイド。お前を最高の作戦参謀に育て上げてやるよ」
指揮官席に座ったジュリアスは、そう言って足を組んだ。
これまでも自分が司令官ではあったが、最終的に全権を握っていたのはトーレス元帥だった。
それが、今は自分が元帥の地位にあって、総指揮官としてレジオノーラの指揮官席にいる。珍しく気持ちが高ぶって、寝てはいられなかった。
『…子供か、私は…』
上着を肩から羽織るだけにして寝台に腰掛ける。ここでだけは喫煙できるようにしてあるので、テーブルに置いていた煙草に手を伸ばす。
『まずまずの初日だったな。まさか午後から戦争を始めることになるとは思わなかったが。…さて、次はどうする、共和国軍…?』
夜半に考えた策は完璧のはずだ。奇襲してきた時にもすぐに対処できるように第五元帥府が警戒をしている。自分が乗っているのは無敗の女神。この紺碧の女神が、帝国を勝利に導いてくれる。
「レジオノーラ、私の女神。この先私が総司令官の地位に上がっても、私はお前に乗って、出撃する。カストラル帝国の戦争が終わらぬ限り、この先もずっと…」
ジュリアスは小さく開けられた窓枠に触れながら、大切な女神に話しかける。中将になってからすぐに手に入れた旗艦だから、もう3年以上の付き合いになる。途中ジュリアスが陸軍に出向していた間も、決してジュリアス以外の指揮官を迎え入れようとはしなかった淑女だ。
「お前は私の宝物だ…。これからも頼むぞ」
そう言って窓に寄りかかると、奇妙な音が聞こえた。
「…レジオノーラ?…お前…教えてくれているのか…」
開け放つことはできないが、ほんの少しなら開けることができる。ジュリアスは音をたてずに窓を開け、耳を澄ました。数瞬の後、口許がニヤリと歪む。
「愛しい女神、お前なしにカストラル帝国の勝利は考えられんな」
煙草を灰皿に押し付けて、完全に消えたことを確認すると窓を閉めた。上着に袖を通し、前は留めないままでマントを脇に抱え、制帽を被る。
「さあ、行こうか、レジオノーラ」
扉を開けると寝ずの番をしていた兵士が慌てて駆け寄ってきた。
「全軍を叩き起こせ。共和国軍の方が早起きらしい。迎撃準備」
「はいっ」
まだ、夜は明けていない。微かに東の空がほの明るくなっているだけだ。その時間、このあたりの海は潮流が変わる。潮の流れが変わる音は、停泊している帝国海軍を混乱させるにはちょうどいいのである。ジュリアスの耳は、しっかりとその音を、聞いた。
艦橋に入ると控え室には戻らなかったらしいダインがジュリアスを待っていた。ジュリアスの格好を見て少し笑う。
「そのままおいでになったのですか。さ、マントを」
「ああ…」
上着の前を留めている間にダインがマントをつけてくれる。支度が終わる頃にはコーヒーを片手にロイドが飛び込んで来た。
「おはようございます!」
「…ああ、おはよう。眠れたか?」
「いえ、何か目が冴えちゃって。でも少し転寝できましたから、大丈夫です」
照れたように笑うロイドが、何だか戦争とは別の世界にいる人間に見えて少しおかしい。
「そうか。…コーヒーを入れる余裕はあったんだな。もらおうか」
ロイドからコーヒーを受け取り、戦況盤に歩み寄る。もうすでに全員が臨戦態勢に入っていた。
「この辺りの潮流のことを忘れていた。さっきレジオノーラに窓に寄りかかって軽く話しかけていたら、音が聞こえてな。奇妙な音が。潮の流れが変わる音と、もうひとつ。小型艦船の音。恐らく潮流が変わる時刻に合わせて、小型艦船だけで編成した部隊が撹乱作戦に入るはずだ。我が帝国の部隊と間違うように船の色も変えていると思う。爆薬を積んでいる無人の艦船があるかもしれん。注意して沈めていけ」
「第三元帥府には囲ませるだけにして、第五元帥府で迎撃にあたりましょう、閣下。その方が恐らく、間違いは少ないと思います」
「ああ、そうだな。私も同感だ、ダイン。後はお前の思うように情報官に伝えてくれ」
「…かしこまりました」
ダインは笑顔のまま、艦橋を出て行った。傍らを見やるとロイドが相変わらず必死でノートに書き留めている。
「いずれ、お前にも作戦参謀を命じる日が来るかもしれん。今のうちだぞ、勉強できるのは。さっきダインに言ったように、私は作戦の全てを語らなくなるからな。悟れるかどうかは、お前次第だ」
「は…はい…」
それはそれで緊張の連続だ。自分の伝え方ひとつで、帝国の勝敗が決まると言っても過言ではない。
「執務官殿は…凄いですね…」
「私の傍で2年も戦い方を見ていれば、わかるさ。自分が余程奇抜なことを言っていると思わない限り、私は全部は言わない。覚悟しておけ、ロイド。お前を最高の作戦参謀に育て上げてやるよ」
指揮官席に座ったジュリアスは、そう言って足を組んだ。
海月
ジュリアスは本当にレジオノーラを
愛しているのですね^^
その想いがレジオノーラに伝わり
微妙な音の変化を教えてくれたのかもしれいなですね^^
ロイド君。
どう変わっていくのか?楽しみですね^^
愛しているのですね^^
その想いがレジオノーラに伝わり
微妙な音の変化を教えてくれたのかもしれいなですね^^
ロイド君。
どう変わっていくのか?楽しみですね^^
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