共和国軍は、小型艦船だけで編成した部隊を帝国海軍が停泊している場所までゆっくりと進めていた。
 目的はもちろん撹乱だが、もうひとつあった。
 司令官ジョーンズ中将の奪還である。ジュリアスが帝国海軍の至宝であるように、ジョーンズ中将もまた、共和国海軍にとって大切な存在なのだ。
 ジョーンズ中将の旗艦が沈んだという報告を受けた共和国軍は、ジョーンズが帝国側の捕虜となったことを突き止めた。そのジョーンズが、恐らくジュリアスの旗艦もしくはその近くに収容されているだろうことも。無線を傍受したのだ。
「ジョーンズ中将が収容されているのはおそらく空母の方だろうと思う。氷の司令官と対面したと情報が入ったから、レジオノーラか、その近くにある空母だと見当はつけているんだが…」
 特別部隊を率いるのはジョーンズと同期のハウラー少将。帝国軍を混乱に陥れるという条件で、ジョーンズ奪還の指揮を許された。
 二人共貧しい田舎街に生まれ、軍人になることで貧しい生活から抜け出し、ようやくここまで登り詰めてきたというのに、こんなところで捕虜になどさせてなるものか。
「ハウラー閣下、本当に氷の司令官はこの戦争に出てきているんでしょうか。傍受した無線ではセイジェルの姓は一度も出てきませんでしたよ?」
「その代わりに出てきた名前を言ってみろ」
「確かレーヴェンローデ元帥…」
「そのレーヴェンローデってのは、カストラル帝国海軍では神とさえ崇められてる名前だ。レジオノーラの出撃、昨日のあの作戦…。どう考えても氷の司令官が名乗る名前を変えたとしか思えん。残念ながら共和国には帝国内部の人事情報などなかなか入って来ないから、断言できないのが辛いところだが。恐らく間違いはない。そしてもし、あの氷の司令官なら…ジョーンズは無事なはずだ」
 無事だと断言するのには理由があった。ジュリアスは捕虜とした敵兵を殺すことをひどく嫌う。これは帝国軍の将官全てに言えることだが、余程のことがない限り処刑はしないのである。司令官クラスでも、何年か労働使役をした後はそのまま祖国へと送り返されている。ただ、それが本人にとっていいことなのかどうかはわからない。
 帝国側は無駄に人殺しをしないという方針かもしれないが、死に場所を失った司令官というのは惨めなものだ。たとえ使役を無事に終えて祖国に帰ったとしても、もうかつての地位には自分の居場所はないのである。
 処刑するのが残酷か、生かして帰すのが残酷か…。
 もしそれすらも計算ずくで帝国が司令官を処刑しないのだとしたら、これほど冷酷な仕打ちもないだろう。
「早めにカタを付ける。これだけ早朝に出てきたが、氷の司令官は必ず早めに気付くだろうからな」
「「はっ」」
「爆薬を積んだ船はどれだ。レジオノーラの一番近くで爆発させるんだ」
「了解しました」
 帝国の艦船と同じ色の艦船を用意した。こういう時のためにいつも備えはしてあるのである。敵か味方かの区別もしやすいようにしてある。共和国軍にしかわからない目印があるのだ。
「仕掛ける。…いつもいつも出し抜かれてたまるか。こっちから、仕掛けてやる…」
 夜明けはそこまで迫ってきていた。
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