「目印は、左舷側。帝国軍の艦船は基本的に薄青の艦船なんだが、左舷側の一部の塗装を濃くしている。ほんの一部分だから、わかっている共和国軍にしか判別はつかないと思う」
 ジュリアスはジョーンズの言葉を聞きながら、コーヒーを口に運んだ。間違いなく今ジュリアスの頭の中では色んな可能性や作戦がはじき出されているのだろう。その鋭い視線の先にあるものが知りたくて、ロイドはノートを握りしめてうずうずしていた。
「…で?やるとしたら、当然撹乱なんだな?」
「そうだ」
「撹乱して、それが成功したとする。どうやって戻るつもりなんだ?船団から離れれば、怪しまれるのは当然の話じゃないのか」
「撹乱のために使われる艦船は、非常に軽量化された高速船なんだ。このレジオノーラの砲撃を受けることのない距離まで逃走できるだけの速度が出る」
 ジョーンズの目を見る。嘘を言っている瞳ではない。そのくらいのことはジュリアスにはわかっていた。
 だが。
「貴殿、それだけの情報をこの帝国軍に漏らして…いいのか?いくら部下の命と引き換えとはいえ…漏らし過ぎではないか?」
「そんなことはない。あとは見分け方を知った帝国軍の攻撃の仕方ひとつ。私の情報程度では、大局は動かない。それに私は帝国の捕虜となった身。共和国に戻ることも諦めているのだから…」
「…ジョーンズ中将。貴殿、何を隠している」
 それまでジュリアスに決して物怖じしない顔をしていたジョーンズの動きが止まった。
「この私を出し抜けるとでも思ったのか。撹乱だけではないな?共和国軍の目的は。…貴殿の奪還も、視野に入れているはずだ」
「無理だ。絶対にそれは無理だと共和国軍はわかっているはず。有り得ない」
「いいや。…それを承知の上で、貴殿を奪還しようとしている人間がいるはずだ。その人間を守りたいから、私に教えているのだろう?そして、共和国軍に攻撃をさせずに逃走させようと思っているんだろう?」
「…レーヴェンローデ元帥…どうして…」
 ジュリアスはニヤリと笑う。
「もし、貴殿が我が帝国の司令官であるなら、私も恐らく貴殿を奪還するために策を弄したと思うからだ。貴殿の名前は、前から知っている。共和国海軍のジョーンズ中将といえば、歴戦の勇者だ。その程度の情報は、こちらも手にしている。貴殿が生きていると判断した者が、間違いなく貴殿を奪還に来る。貴殿はそれを悟って、その人間を守るために私に情報を漏らしているのだろう?撹乱作戦が失敗に終われば、共和国軍はすぐに逃走するはず。だから先に失敗させて、大した傷も負わせずに共和国に戻すことができると、そう思っているのだろう?…私の言っていることに、間違いはあるか?」
「いいや…。ほぼ、正解だ…」
 がっくりと項垂れたジョーンズを、だがジュリアスは決して責めなかった。
「このレーヴェンローデを敵に回しても奪還したいと思わせる貴殿が共和国軍にとってどれほどの存在であるのか、これでよくわかった。…安心しろ。無駄な傷は負わせない」
「どういう…こと…だ…?」
「撹乱作戦の前に…事を済ませるのさ…」
 この場にいる誰一人、もちろんジョーンズも含めて、ジュリアスの頭の中に描かれた作戦を読み取る事はできなかった。
Secret

TrackBackURL
→http://kaiserkirihara.blog33.fc2.com/tb.php/770-73a4e4b1
Copyright ©K's Factory All Rights Reserved.
material by b-cures. template by テンプレート配布 lemon lime