バザールに10日ほど滞在してから、ふたりは泉(せん)の都に入った。
 バザールで衣を売っていた商人が言っていたとおり、聖なる泉は旅人にも開放されて
いるようだ。あちこちに泉の場所を示す看板がたっている。
 ふたりはその賑やかな街で、客引きをかわしながら歩を進めていた。
 そろそろ宿でも決めようかと考えたエシャールは言った。
「どうする。すぐにでも泉に向かうか?」
 振り返ると、アイーシャがウィンディアの背中で青ざめた顔で蹲っている。
「アイーシャ??」
 慌てて馬を止めると、アイーシャが何でもないと言いたげに首を横に振った。
「何でもないことはないだろう。こんな青い顔をして!」
「何でもないの…。ちゃんと説明するから…宿を取って…」
 エシャールは仕方なく宿を取り、抱えられるのを嫌がるアイーシャに不審なものを
感じながら部屋に入った。
『何故具合が悪いことを言わなかったのだ。今朝はそんなに辛そうではなかったのに』
 先に部屋に入ったエシャールは、荷物を寝台に放って、腕を組んで窓辺に寄りかかった。
「…で?」
 遅れて入ってきたアイーシャに、エシャールは不機嫌そうに尋ねた。
 何故かアイーシャは真っ赤な顔でうつむいている。
「アイーシャ」
 苛ついたエシャールの呼びかけに、アイーシャはおずおずと答えた。
「…あの…あのね…。アタシ…ちゃんと成長…してるみたいでね…。そのね…
 赤ちゃんが産める体にね…その…」
 そこまで聞いて、ようやくエシャールはアイーシャの赤面の理由がわかったらしい。
「す、すまない!いらぬことを訊いた」
 アイーシャが顔をあげると、エシャールが本当に真っ赤な顔をしているではないか。
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